室生山上公園芸術の森

ダニ・カラヴァン

室生山上公園芸術の森の概要

■ 事業推進の経過について

旧室生村はH9年度に国土庁の支援を受け、過疎対策として「むろうアートアルカディア計画」を策定した。室生滝谷出身の彫刻家井上武吉氏(1930~1997)が構想した「森の回廊計画」を核に、公共事業とアートの融合により文化芸術の視点からの地域づくりをすすめるアートアルカディア計画のシンボルとして、山の上のモニュメントを構想した。

注)「森の回廊計画」は、彫刻家井上武吉氏自身の創造の原点である村の風景を再発見させ、村全体を人間と自然が共存する美術館として構想された計画である。「アルカディア」とは、豊かな自然に恵まれた理想郷を意味する。「アートアルカディア計画」とは、文化芸術活動を意味する。アートを結びつける ことによって、自然と文化の調和、自然と人間が調和する現代の理想郷づくりをめざす。

奈良県は、地すべり対策の跡地を利用した公園整備を図るために、H10年度に「わが町の斜面地整備構想プラン」を策定。このプランでは、地すべりの視点と地域振興の視点から公園利用を検討された。


■ 施設整備の意義について

・アートアルカディア計画の第2のシンボルとして整備。
・地すべり対策後の跡地を有効活用しながら、アートアルカディア計画がめざす「室生らしい風景づくり」として、生活基盤と文化基盤の同時整備を図る。
・住民一人ひとりの感性を刺激させ、心を豊かにする「心の活性化」を図ることが長期的には地域を活性化させ、ひいては人間らしく生きることのできる環境づくりに寄与させることとなる。
・公共事業とアートを融合させたモデル事例として、広く国内外にPRする。このことによって、観光や地域の活性化に寄与させる。


■ 施設の概要について

・村出身の彫刻家井上武吉氏によって着想された「山の上のモニュメント構想」が、彫刻家ダニ・カラヴァン氏によって実現された。室生の精神風土に根ざした心の拠りどころとなる癒しの空間を創出している。
・公園全体が芸術作品であり、文化・芸術活動を促進させるための風景彫刻として、将来の文化遺産をめざしている。
・「自然をつかって第2の自然をつくる」ことをコンセプトに、昔の生活の足跡、棚田や森といった要素をできる限り再現し、人々にとって懐かしい原風景を象徴的に表現している。
・感性や五感が刺激される癒しの場として、自然環境と調和するよう各モニュメントが  配置されている。




■ 光と影が織り成すアート空間へようこそ

世界的に著名な彫刻家、ダニ・カラヴァン氏の想いのもと設計されたこの公園は、自然のすばらしさや、季節、時間の流れを全身で感じることができる。まさに“芸術の森”の名のとおり公園全体が風景彫刻であり、世界に誇れる芸術作品です。ご自身の五感で作品に触れ、自然と向き合い、自然に生かされていることを体験してください。都会の喧騒から離れた、ゆったりとした空間と時間をお楽しみください。


室生山上公園芸術の森 地図

施設の概要

施設棟

桜の丘から続く一体的な形状を再現している。公園を訪れるビジターの休憩所として利用する施設。施設内は、白を基調とし、天窓から降り注ぐ光により清潔感あふれる雰囲気で、トイレも完備。カフェやショップも実施予定であったが、現在行っていない。

波型の土盛り

主園路から分岐して、古くからこの場所にあった「弘法の井戸」へと人々を導き入れるための並木と波形の遊歩道。この遊歩道の幅は、主園路部分では広く井戸に近づくにつれて狭くなっていくが、井戸の方から振り返ると並木の線が平行に見える。これは遠近法による目の錯覚であり、旧室生村出身の彫刻家 故 井上武吉氏がたびたび彼の作品に用いた表現である。そのため、作家は意図的にこの表現をつかい、井上氏に捧げるオマージュとしたいと考えている。不思議な身体的体験ができる場所である。両脇に植えられている木は、ベニカナメモチ(レッドロビン)。"

らせんの竹林

"直径約17m・深さ4m らせん状の竹林を壁伝いにぐるぐる回りながら地下へともぐってゆくと、そこからトンネル状の通路が伸びており、徐々に地上へと舞い戻る。開かれた空間から閉じられた空間、地上と地下、明と暗という複雑な空間体験を楽しめる場所。

らせんの水路

渦巻き状に水の流れる浅い水路。第1湖より連続する水の流れの一環であり、子どもたちが葉っぱを流しそのスピードを競うなどして安全に遊ぶことができる場所。水路の途中には、日時計となる鋼製の棒が立っている。水路の形は、作家が現地を訪れた際、とぐろを巻いた蛇が逃げていく様を具現化したとも…流れ始めにある1本の木はキンモクセイ。

太陽の塔・ゲート

塔:高さ8m、直径9m ゲート:高さ6m 奈良から伊勢につづく重要な神社仏閣等をつなぎ、古代の太陽信仰にもつながっているのではといわれる北緯34度32分の「太陽の道」を視覚化して、この場所を歴史的な軸線上に結びつけ位置づけしようとしている。太陽の塔はコールテン鋼が使用され、南面にスリットが設けられ、時間や季節によって塔のなかに光の線を描き出し、これが日時計の役割をしている。ゲートは東西にのびる「太陽の道」の軸線を視覚化すると同時に太陽の動きを表現しており、ゲートによる光と影との織りなす景色を味わうことができる。

棚田

最近まで住民が耕作を続けてきた棚田の形、自然の地形に沿った美しい棚田の風景をそのまま土地のもつ記憶として残そうとしている。 実際に稲を植え、収穫までを行っているが、猪・鹿による食害がひどく、防除柵を施しているが、それでも被害を被っている。

観覧席 東・西・南

階段状のアーチ型ベンチで体を休めたり、第1の湖周辺全体の修景を見渡すことが出来る。躯体はカラーコンクリートの「大地」(こげ茶)で造られており、作家はこの観覧席がビジターセンターと同様に現地の自然地形の土の中から掘り起こされたようなフォルムを意図している。ひとつの観覧席に150人程度座ることができる。

第1の島

野鳥観察の島:直径14m 島内に樹木を植栽し、室生に生息する野鳥を呼び込み野鳥観察を楽しむ施設。

第2の島

ピラミッドの島:直径16m クサビ形のピラミッド状の四阿を設置し、休憩や瞑想をしたり第1の島に集まる鳥の観察をする施設。この島のピラミッドは、カラヴァンの作品の中で繰り返し使われるフォルムで、テントや家といった包まれた空間、保護された空間というイメージであり、中に入ると空や周囲の風景を切り取るフレーム(額縁)ともなる。カラヴァンは、その色合いや形状について永久的に普遍の意匠状況を保つことを目指しており、ピラミッドはコールテン鋼といわれる鋼材を使用しており、その表面は茶褐色の錆びた状態である。しかし、一般の鋼材のように塗装をしなくても、それ以上、サビが、鋼材の内側に進行しないため、構造物の耐久性が半永久となる。

第3の島

野外ステージの島:直径18m 島内にウッドデッキ(南洋材:セランカンバツ)による野外ステージを設置し、イベントなどが開催できる施設。

遊歩道

園内の遊歩道の舗装は、木質チップと樹脂材を混合して歩道用舗装材として作られたものだが、周辺の自然景観と調和した色合いと素材の質感を持つものとなっている。舗装材料の木質チップは公園区域内の人工林の間伐や工事に際して支障となった樹木をチップ化して再利用したもの。

ビジターセンター

公園の情報提供を行う施設として位置づけられたもので、建築物が自然地形に溶け込むような設計が行なわれている。(現地形の土中から掘り出されたような形。)正面入口のカーブした(アルファベットのS字状×2)形状やそれに連続した両側のウイングは、既存の地形を生かし、建築としての突出した箱のイメージを極力抑え、そこに元々あったかのようなフォルムとしている。建物にはカラーコンクリートが使用されており、その色については、作家が現場の土をフランスに持ち帰り、土の色合いに合わせてコンクリートの色を決めている。建物内部の中庭には苔山を再現し、裏山から連続する空間づくりを行っている。 ちなみに、ビジターセンター前に植栽されている木は「コブシ」である。